当時はカーレースゲームと言えば画面の動きも激しく、立体的な映像となれば尚更そういったものはゲームセンターへ出かけて遊ぶジャンルだという時代。
ポリゴンで描かれた画面のゲームが、マイコンで遊べる時代がやってきた「期待」と、そして実際に自分が初めてMacintoshで遊んで「感動」を与えてくれたゲーム。
それがこのSpectrum HoloByte社からリリースされた「VETTE!」。
「VETTE!」は単なるポリゴン技術が使われたカーレースゲームではなく、実在するアメリカ「サンフランシスコ」の街を再現し、その街の中をスポーツカー「コルベット」で爆走できるゲーム。
カーレースゲームでもあり、シミュレーションゲームでもあるのかな、と思う。
そしてもう1つ、すごいのが「対戦機能」を備えているところ。
当時、マイコンを複数台ネットワークに繋いで遊ぶゲームは存在していたけれど、ポリゴンで描かれるカーレースゲームで対戦機能を持ったものって、他にあったのかが自分の記憶に無い。
これは相当先に進んでた機能で、対戦方法はもう1台のMacintoshを用意し、直接モデム端子で接続、もしくはAppleTalk経由で接続。
そして当時は、モデムでアナログ電話に接続して通信する時代だったけど、なんとそのアナログモデムで接続して遠隔のMacintoshとも対戦が可能に。
NTTの「テレホーダイ」が始まるか、始まったところか、そういった時代。
通信速度は最高で56,000bpsだけど、たぶん当時はまだ14,400bpsくらいが主流だったように思う。
今の時代だと耐えられない遅さだろうけど、当時はインターネットもまだ普及していなかったし、やり取りするのはテキストベースだからこれで十分だった。
さて、話を戻して……。
手元にはオリジナルの英語版と、日本語ローカライズ版があったりするけど、起動して遊ぶのはいつも英語版の方。
実のところ、日本語版の存在は当時知らなくて、最近になって手に入れたものだったりするけど。
ゲームを起動すると、サンフランシスコ定番のケーブルカー、そしてその横を走り去っていくコルベットが描かれるタイトル画面。
タイトルBGMは短いけどジャジーな感じで渋い雰囲気のある味のある音。
初めて起動したとき、このBGMにも感動して何度も立ち上げ直したりも。
BGMの音が、いわゆるサンプリングされた重厚な音で、PSGやFM音源から発音させることが普通だった当時としては、とても贅沢な方法で、曲調も日本のゲームからはあまり聴いたことがない。
たったこれだけの演出にも感動してしまうとか、今では考えられないことかもしれない。
ゲームを始めると、まずはガレージ。
ここで自分が操作する4種類のコルベットを選択。
コルベットは、標準的な性能のコルベット、さらに高性能なZR-1、Callawayがより高性能にチューニングしたTwin Turboモデル、そして同じくCallawayが驚異的なスペックにしてしまったSledgehammerコルベット。
どれも実在するスペックを忠実にシミュレーションしている。
速いマシンをいきなり選びたくなるけど、速すぎて操作が難しくなるので、最初のうちは標準的な性能で走ることがおすすめ。
ライバル車を選択。
ライバルも速そうな車が勢揃い。
ポルシェ、ランボルギーニ、テスタロッサ、そしてF-40というラインナップ。
コルベットがF-40とガチで勝負して勝てるんだろうか?と若干疑問だけど、そこはドライブテクニック次第で。
ここの画面でも、左下でくるくる回転するポリゴンで描かれたスポーツカーがかっこよくて、つい眺めてしまう。
コースは4つの中から選択。
ゴールデンブリッジを渡るコースや、長いトンネルを走るコース、サンフランシスコの街をゴールまで自由に走れるコースなど、実際のサンフランシスコのマップが再現されている。
レース開始。
ポリゴンの世界が広がる、この未来感。
ちなみに、道路には人が歩いていたりするから、ひいてしまわないように気をつけて。
なんだか、ふと最近のあのゲームを思い出してしまった。
真面目に走ることもできるし、乱暴に走って、銃とか持ったりして……っていう、あの問題になったゲーム。
考えてみれば、20年以上前には基礎となるゲームが存在してたわけで、あのゲームは言ってみれば「昔のゲームの焼き直し」ってことを、いったいどれくらいの人が気づいているのかな、と考えてしまう。
「オープンワールド」とか、今更になって出てきた言葉だけど、わたしらの世代ではもう20年以上前から実現してる世界だったりするわけで。
そしてサンフランシスコと言えば、ゴールデンゲートブリッジ。
この橋もしっかり再現されていて、出口には料金所のようなゲートを通り抜ける。
ところでこのゲームは、カーレースゲームだけど走る場所は「公道」なわけで、当然ながら制限速度や優先道路、交差点などには信号もあったりして、それらを原則的には守る必要がある。
だけど、真面目に走ればライバル車に追い抜かれてしまうので、交通違反が見つからないように爆走することが必要に……。
交通違反が見つかると、この通り。
おまわりさんに捕まってしまう。
ほんとにもうこれは現実の世界でも、バーチャルな世界でも後悔する瞬間。
後ろで突然聞こえるサイレン音。
現実に自分も何度かお世話になってしまったあのドキドキ(イヤなドキドキ)が今でも鮮明に思い出せる、過去の苦い思い出……。
とりあえず言い訳することができる。
3番の言い訳とかすごいな。
ごく希に、言い訳すると違反切符を切らずに見逃してくれることもあるけど、大抵は無理。
まぁこれは現実の世界でも同じかな、と。
こんな感じで違反切符ゲット。
この後、現実の世界ではトラフィックスクールへ行ったり、違反の内容によっては裁判所へ行って「I'm guilty」と言わなくてはならないことに。
相手は警察、異議申し立てをしたとしても、まぁ大体は負けの勝負になるらしいですけど。
最悪なのは、違反していないのに警察の誤解(?)で切符をもらうこともあって、そういうアバウトな感じはアメリカだけなんだろうか?と個人的には思ったり。
あぁ、手が震えて画面写真がぶれてしまった……。
サンフランシスコの海に突っ込まないように!
せっかくのコルベットが台無し。
こりゃ廃車かな。
乱暴に走って、車ぶつけないように!!
ここまで豪快に壊すと、修理代どれくらいかかるのかな・・・。
レースに負けると、こういう有り難いお言葉を頂戴することに。
レースに勝って、勝ち誇りまくり。
すごい坂道、すごいぐねぐねの道が実にうまく表現されてる。
と、「VETTE!」はこんな感じのゲーム。
搭載されていた新機能のすごさは、本当に今後発売される未来のゲームに大きな影響を与えたゲームだと、今でも思う。
最近のゲームを見ていても、VETTE!ですでに実現しているものがとても多いことがわかってもらえると嬉しいな。
もちろん他にもMacintoshでカーレースゲームがあり、ほぼ同じ時期に出たゲームとなれば「The Duel: Test Drive II」でこれもいわゆる「街道レース」。
「VETTE!」で実現した特徴はやっぱり「ポリゴンによるリアルタイム描画」と「実在するサンフランシスコの街を再現」したこと、そして「通信対戦」だと思う。
当時にあった技術やマシン性能をギリギリまで使われていることが、大きな感動につながっているのかなと。
もちろんハード面だけでなく、ソフト面でのアイデアや作り込みもまたすごい。
ところで、当時もゲームの必勝本というものはあったけど、ここまでしっかりとした作りの本が出ているゲームはまだ珍しかったのでは?日本語ローカライズを行った会社(トワイライトエクスプレス社)自身が発行したガイド本で、ゲームの楽しさを伝えるだけでなく、コルベットの情報や、サンフランシスコの街のことなども書かれていたりと、読んで楽しめる本になっていて、最初から最後まで読み応えのある一冊。
さてと、ここからは個人的な思い出話の余談でも。
このゲームを初めて遊んだのは1992年(Macintosh LCを買った後すぐ)。
英語もわからないし、外国へ旅行に行ったこともなく、アメリカやサンフランシスコは、本やテレビとか映画でしか見たことが無い世界。
サンフランシスコと言えば、ゴールデンゲートブリッジや、シーフード料理とか、そういうイメージだけで、詳しいことは知らない。
アメリカ映画が好きでよく見ていたから、映画を通しての刷り込みが大半。
車もまだあまり興味が無かったけど(当時はバイクが好きだった)、コルベットはアメリカ映画やドラマによく出てくるから知ってた。
スポーツカーって何?と尋ねられると自分は即座にその時も今も「コルベット」ってまずは答えてしまう。
そんな自分が約10年後に、まさかこの場所に来ることができるなんて、当時は全く想像してないし、そもそも言葉がわからないし。
だからこそ、この街へ来たときには、オホーツクに消ゆを遊びまくって北海道へ行くくらいの強烈な感動した。
人がすごく多い。
観光地だから尚更なんだけど。
やっぱり想像通り(刷り込み通り)で、シーフードのレストランがとても多く、観光客だけでなく現地に住んでる人もシーフードをよく食べてる感じ。
そして坂道。
自分の知ってるアメリカでは、ほとんどの人がオートマの車に乗っていて、マニュアル車は乗らない、というか、そもそも操作方法を知らないって人がすごく多い感じがする。
坂道だらけの街だとマニュアル車は確かに不便。
オートマ車よりも燃費が悪くなりそうだし。
とにかく車も多い。
縦列駐車も半端なく多くて、たぶん下手な人もいるだろうから、結構ぶつけてたりしそう。
というのも、古い車が現役で動いてるのも多いけど、経年劣化じゃなくて、明らかに「ぶつけました」というボディの凹みが目立つ車がほんとに多くて。
当てたのか、当てられたのか、たぶんどっちも多くて、もういちいち気にしていないのかも。
どの車もハンドルを側道に切って駐車していて、そういうところは坂道だらけのサンフランシスコらしい風景なのかなと思う。
どこの街にもあるチャイナタウン。
さすがです。
しかしこのビル、外壁に描かれた絵がすごい。
ちなみに、アメリカで食べる中国料理は、日本で食べる中国料理よりも、中国の方が食べる味に近い中国料理かなと思う。
個人的にはチャイニーズレストランへ行くとかなり高い確率でKung Pao chickenを注文して食べてた。
どのビルも特徴的で、アメリカらしい感じ。
映画で出てくる風景が普通にある(当たり前だけど)。
最近のアメリカ映画はCGで脚色されてることがほとんどだと思うけど、自分がよく見ていた80年代の映画はそういう技術もほとんど無くて、結構そのまんまの映像だから、実際に初めてその場所へ訪れた時は、その世界に入ったような気分になれる。
ロサンゼルスだとサンタモニカとかビバリーヒルズとか、そういう映画によく出てくる街。
人、車、坂道、ケーブルカー、まさに「VETTE!」の中で描かれた実際のサンフランシスコの街と同じ。
現実はもちろんかくかくしたポリゴン映像ではないけど、頭の中で実物とVETTE!の映像が今でもうまい具合にリンクできて、サンフランシスコの街を知った後はもっとこのゲームが面白くなった気が。
ちなみにVETTE!は、Macintosh版だけでなくMS-DOS版もあるけど、Macintosh版の方がずっと出来が良い。
たぶん、YouTubeとかで誰かがアップしてると思うので、気になる人は比較してみてもらえたらと思う。
そんな個人的に思い入れのある逸品の1つを、紹介させてもらいました。